子どもを叱る時に思い出したい「効果的な最初の一言」と「発達にリスクを与える叱り方」

子どもを叱る時に思い出したい「効果的な最初の一言」と「発達にリスクを与える叱り方」
モンテッソーリ教育とレッジョ・エミリア教育の研究者であり、ベストセラーの育児本「自分でできる子に育つ ほめ方 叱り方」の著者、島村華子さんの連載コラム。第3回のテーマは「子どもの健全な成長を支える叱り方」です。

<目次>
1.感情的になってしまう叱り方のリスクとは
2.罰による叱り方の例
3.罰を使った叱り方の問題点
4.効果的な叱り方のポイント
5.「子どもの健全な成長を支える叱り方」のまとめ

 

感情的になってしまう
叱り方のリスクとは

子どもを育てる中で、つい感情的に叱ってしまう場面は珍しくありません。親も人間であり、忙しさやストレスの中で精一杯でやっています。

思うように子どもが動かないとき、何度言っても直らないとき、イライラが溜まり、つい声を荒げてしまったり、罰を使ってコントロールしようとすることもあるでしょう。

しかし、感情的な叱り方や罰を用いた育児は、親子の信頼関係にヒビが入るばかりか、子どもの発達にも悪影響を及ぼす可能性があります。今回は、罰を使うことのリスクと、子どもの健全な成長を支える叱り方のポイントをお伝えしたいと思います。

罰による叱り方の例

まず、ここでいう「罰」とは、叩く・怒鳴るといった物理的なものだけでなく、感情的なものも含まれます。無視をする、脅す、親の愛情を引っ込めるなど、子どもに対する制裁的な行動のことです。

例えば、「お片づけしないなら今日はデザートなしだよ」と脅したり、「言うこと聞かないなら今日は抱っこしない」と愛情をエサにするなど。このような叱り方は一時的には大人の言うことを聞くかもしれませんが、実はたくさんの問題点があります。

罰を使った叱り方の問題点

まず、「言うことを聞かないのなら、もう〇〇しない」というような愛情をエサに子どもを叱る方法が問題となるのは、子どもが「親の思い通りに行動しなければ愛されない」と感じるようになってしまう点です。

本来、子どもの自己肯定感は「自分らしさ」を受け止めてもらうことで育ちますが、この叱り方は「愛情=親の思う通りに動くこと」と子どもに思わせてしまい、自己肯定感を傷つけてしまいます

さらに、外的コントロールが正当化されると、子どもは「人の行動をコントロールするには、愛情をエサにすればいい」と誤って学んでしまいます。

こういった考え方は、子どもが人間関係を築く基盤となってしまい、友人関係、恋愛関係など、あらゆる関係にネガティブな影響を及ぼす可能性があります。

これに限らず、罰を使った叱り方は、世代を超えて伝染する傾向があります。例えば、日本の大学生を対象にした研究でも、子どもの時に叩かれた経験のある人は、子育てにおける体罰を「場合によっては必要だ」などと考える傾向があることもわかっています。

つまり親自身が幼少期に受けた罰の影響で、「自分もそうされたから」という理由で同じ方法を正当化し、繰り返してしまうことがあるのです。

心のどこかでは「子どもの時に自分がされて嫌だった」と感じていたとしても、他の叱り方を知らなければ、それを自分の子どもにも同じようにしてしまうリスクがあるのです。

親子関係が損なわれる可能性も見逃せません。子どもが一時的に親の指示に従ったとしても、抑圧された不満や怒りはずっと蓄積されていきます。

その結果、成長のある段階で、親に対する信頼感が揺らぎ、さらには嫌悪感を抱くこともあります。こうした感情は、長期的に親子関係を悪化させる恐れがあります。

さらに、罰を用いた叱り方は、反省を促す効果が低いという欠点もあります。子どもは、「なぜ怒られたのか」という本質よりも、「嫌な思いをした」という感情だけを記憶するため、同じ行動を繰り返してしまいます

何度叱っても直らないという経験をした方も多いでしょう。これは、何が問題であったのかを子ども自身で振り返る機会がなかった、あるいは振り返るための大人の手助けがなかった可能性があります。

教育哲学者のジョン・デューイの有名な言葉にもあるように、「人は経験だけでは学ばない。その経験を振り返ることで初めて学びが生まれる」。つまり、一方的に叱っても子ども自身が考えることをしなければ、行動の改善や学びにつながらないのです。

効果的な叱り方のポイント

まず、子どもの行動を否定せずに一度受け止めることが重要です。子どもがどんな気持ちでその行動を取ったのかを理解しようとする姿勢が、心理的な安心感を生み出します。

受け止めるというのは、子どもの行動を許すという意味ではありません。子どもの言動に対して感情的に否定するのではなく、「どんな気持ちでそうしたの?」「〇〇がしたかったのかな?」と問いかけ、まずは歩み寄るということです。

私たちの感情が高ぶっているとこれはなかなか簡単なことではありませんが、叱るときの一言目は、まず「言葉で子どもを抱きしめる」ことで、子どもは安心して自分の考えを話せるようになり、対話の土台ができます。

また、「そんなことばっかりしてると、お小遣いあげないよ」などと罰で脅すのではなく、具体的な説明を行うことが大切です。どの部分が問題だったのか、それがどのように他者や周囲に影響を与えたのかを、子どもにわかりやすい言葉で伝えましょう。

例えば、「こんなに散らかして! 早く片づけなさい!」と言うよりも、「おもちゃを床に置いたままだと、他の人がつまずいて危ないよね」といった具体例を示すことで、子どもが状況を理解しやすくなります。

さらに、性格を批判するような言い方はせずに、一緒に解決策を考える姿勢も欠かせません。「本当にだらしない子」といった人格否定の言葉は避けて、「どのおもちゃから拾おうか?」と問いかけることで、子どもが自分自身で一歩を踏み出す手助けをします。

こうしたアプローチは、子どもの問題解決能力を育むことにもつながります。

「子どもの健全な成長を支える叱り方」のまとめ

罰に頼る叱り方は簡単です。子どもにイライラさせられたことで、つい「何とかわからせなければ!」という気持ちが生まれるのもよくわかります。

ただ、このやり方を続けても子どもの行動は根本的には改善せず、親のイライラが増えるばかりか、親子関係も悪化の一途を辿ることになってしまいます。

子どもの健全な成長を支え、親子の信頼関係を高めるためには、子どもを否定するのではなく、その気持ちを一度受け止め、具体的な説明を通して根気よく理解を促すことが大切です。

また、人格批判を避け、一緒に解決策を考えることで、子どもが自立した問題解決能力を身につけるきっかけを作ることができます。

このような叱り方を日々の育児に取り入れることで、親子ともによりストレスが少なくなります。こちらに余裕がない時にいつもできるわけはありませんし、ついカッとなって感情的な叱り方をしてしまうこともあるでしょう。もちろん完璧を目指す必要もまったくありません。

ただ、小さな積み重ねが子どもとのつながりを変えてくれる力を持っているのは確かです。

気持ちに余裕がある時に、少しでも頭によぎった時に、いったん深呼吸して「一言目で子どもを抱きしめる」をぜひやってみてくださいね。

PROFILE

島村華子

オックスフォード大学修士・博士課程修了(児童発達学)。日本人で唯一の、モンテッソーリ&レッジョ・エミリア教育の二つを司る研究者。現在はカナダの大学にて幼児教育の教員養成に関わりながら、日本でも教育・子育てについて、親や教育者に寄り添ったアドバイスを発信している。著書『アクティブリスニングでかなえる最高の子育て(主婦の友社)』『自分でできる子に育つ ほめ方 叱り方(ディスカヴァー・トゥエンティワン)』『親子でできる モンテッソーリ教育とマインドフルネス(創元社)』

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FQ Kids VOL.21(2025年冬号)より転載

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